【前編】JCBが基幹システム領域のモダナイズに着手!実装プロジェクトの先進性に迫る
株式会社ジェーシービー(以下:JCB)は、基幹システム内にあるデータの迅速な利活用とシステム資源の最適化を実現するために、基幹システム領域におけるモダナイズに着手しています。日々、膨大なデータ処理が行われているJCBの基幹システムをさらにアップデートすることで、あらゆるサービス提供の可能性が広がります。
この実装プロジェクトの概要やJCBの取り組みの先進性などについて、基幹システム開発部の鈴木さん、西尾さん、小林さん、子安さん、真保さんに話を伺いました。
■重厚な「JENIUS」に新たな技術を加えるため、モダナイズに着手
――まずは、これまでに基幹システムのデータを活用したJCBの取り組みについてお聞かせください。
子安さん:基幹システムを始めとしたJCB社内のデータを活用している事例で「JCB消費NOW」という、JCBとナウキャストがタッグを組んで開発したサービスがあります。世の中の消費の実態を把握するためにJCBグループの会員さんからランダムに約1,000万人の属性や決済情報を抽出し、消費動向を把握できるサービスです。もちろん、会員情報は個人が特定できない情報へ加工されているので、安心して提供できる仕組みとなっています。
消費動向のデータ集計と配信は2週間で行われるため、速報性の高いデータが得られます。JCB消費NOWのデータは金融機関による景気の把握・予測や投資判断、事業会社のマーケティングにおける意思決定など幅広い用途で活用されていますね。
https://www.jcb.co.jp/pop/jcbconsumptionnow.html
――JCBでは非常に多くのデータを扱っていますが、現在はどのようなシステム基盤で動いているのでしょうか。
西尾さん:当社の基幹システムである「JENIUS」は、メインフレームと呼ばれる大型コンピュータ上で稼働しており、会員機能や加盟店機能、ブランド機能などの重要機能が同システム上に配置されています。システム規模はソースコードレベルでは約2,500万Stepと巨大であり、稼働環境は5台のメインフレームと、搭載するCPU能力も国内トップクラスであるのが特徴です。JENIUSは拡張性・信頼性・汎用性に優れており、お客様のニーズに対応するために常に進化を続けてきました。
――常に進化を続けているということですが、今回のモダナイズに至った背景をお聞かせください。
西尾さん:背景には大きく2点の課題があります。1点目として、メインフレームの「将来性」と「コスト高止まり」です。国内の大手ベンダーがメインフレーム事業からの撤退を発表しましたが、大きく同様の流れになると考えています。コストに関して、JENIUSは当社システムコストの中でも大きなウェイトを占めており今後も増加が懸念されています。これは当社だけではなく、他のメインフレーム導入企業で共通している課題感であり、当社としてもメインフレームへの依存度を低減してく事が必要です。
2021年に発表された調査レポートによると、メインフレームを使ううえでの最大の課題は「コストの高止まり」であると言われており、2030年以降はメインフレームを廃止する前提で戦略を考えるべきとも提言されています。しかし、当社規模のシステムとなると、短期間でのメインフレーム脱却は困難です。
同規模の他社動向においても、依存度を下げるために一部をオープン化したり、新規アプリケーションのリプレイスを図ったりしています。つまり、前述の「将来性」「コスト高止まり」の打ち手として、これまで「JENIUS」で担っていた機能の一部を外出ししていくことが、今回のモダナイズの一つの目的です。
――将来性・コストという課題がある一方、もう1点の課題についてもお聞かせください。
西尾さん:2点目はシステム構成に関する課題です。近年は少額決済の増加などでCPUの利用量が増加しています。2012年からの10年間でみると、お客様のご利用の処理については約3.3倍、MyJCBをはじめとするお客様サービスの処理は約10倍の伸びを示しました。また、お客様接点サービスの増加により開発ニーズも増加しています。
JENIUSは2008年に全面稼働していますが、基本的な設計思想は当時を踏襲しており、一部レガシー化している側面もあります。例えば、システム間接続では、MQやHULFTと言った製品経由での接続に限定しており、REST-APIやKafkaのような最近のオープン技術には対応しておらず、開発手法も全面稼働当初のプロセスのままです。従来の重厚なJENIUSに新たな“攻めの技術”を加えたいといった事も今回のモダナイズのもう一つの目的です。
■膨大なデータをほぼリアルタイムで反映させることに成功
――改めて今回のモダナイズ施策の概要をお聞かせください。
西尾さん:今回のモダナイズは大きく、データのニアリアルタイム連携、ローコードツールとCI/CDを活用した生産性の向上、AWSの活用、コンテナ技術の組み合わせの4つがポイントです。
1つ目のニアリアルタイムのデータ連携については、これまで使用していたJENIUSの一部のデータを、新たに構築する基盤のデータコアサービスへ即時反映させて集約を図っていきます。その即時に集約されたデータを参照系APIとして公開する基盤を構築し、従来のJENIUSでは数ヶ月かかっていたデータ提供に関する開発が大幅に短縮化されます。ここでは2つ目のポイントであるプログラムの記述量を抑えるローコードツールの導入や、CI/CDといったテスト・資源配布の自動化パイプラインの構築をすることで、生産性を高めることができました。
3つ目のポイントである新たな基盤をAWS上に構築することも大きな取り組みです。AWSを利用することで初期投資を抑えつつスタートできるメリットがあります。4つ目のポイントであるコンテナ技術も活用すれば、アプリケーションの柔軟性も実現できます。
このようにモダナイズによって、これまでメインフレームで担っていたデータ参照機能の一部を新たなAPI基盤に出してメインフレームの負荷軽減を図り、安全性の高いセキュリティ規格に準じた環境の中で、新たな技術も加えていきます。
小林さん:処理負荷とコストは非常に大きな課題です。処理負荷が高いためにコストも高くなり、開発も複雑化して生産性が向上しないという負の循環に陥ってしまいます。そこでメインフレームの負荷軽減やローコードツールの活用が実現できれば、コストも生産性向上の問題も解決することが可能です。
――今回AWS上に構築する新たな基盤はどのくらいの規模になる予定なのでしょうか。
西尾さん:今回の取組み後もJENIUSは稼働を続けますが、一部の処理を少しずつ新しい基盤で受け持つように移行していきます。具体的な割合はこれから算出していくところですが、将来的にはJENIUSで受け付ける参照系処理の半分くらいを新しい基盤で受け持つことを目指しています。
一方で、バッチ処理についてはメインフレームだからこそ決められた時間内に処理できている部分もあるため、お客様にご迷惑をかけないように、慎重に機能を見極めながら段階的にメインフレームからの機能移管を進める必要があります。
――今回のプロジェクトの期間やメンバーの人数をお聞かせください。
子安さん:期間は1年半ほどかけて実施する予定です。プロジェクトの全体として数百人月規模になります。本来であればもっと工数が必要となる開発なのですが、ローコードツールコーディング量を抑制できる部分があるため、本来の工数よりも抑えられている面もあります。
――非常に大きな取り組みだと改めて感じました。今回のモダナイズで先進性がある部分はどちらなのでしょうか。
西尾さん:ニアリアルタイムでメインフレームのデータをクラウド上に移し、コンテナ技術を使ってデータ参照系のアプリケーション提供する部分です。JENIUSでは、1秒間に数千件の更新系・参照系のオンライン処理を受け付けています。Poc初期段階ではこれら大量の更新分を連携するためデータの反映に数分ほど要していました。Pocにおいてチューニングを行う事で、数秒でメインフレームの更新情報をクラウド環境へ反映できる目途が立ちました。
メインフレームは細かいCPUの割り当ての設定が可能ですが、適切に設定をしないと、データ連携時にCPUの割り当てが十分に行われず、処理に時間を要してしまう事象が顕在化していました。そこであらゆる角度から原因特定を試み、CPUのバランスをチューニングしたところ、今回の結果を実現できました。私たちも想像以上の成果を出せたので、思わず気持ちが高まりましたね。
当社はJENIUSのデータを多くの部分でマスターとして扱っているため、このデータと1日や数時間のずれが生じるだけでデータとしての価値が減ってしまいます。そこをほぼリアルタイムのデータを参照できるのは大きな価値があるといえますね。
――ローコードツールで生産性を向上できることの効果についてもお聞かせください。
西尾さん:フレームワークにより一定の共通化は図っているものの、従来はJavaプログラムを一からコーディングして業務アプリケーションを製造していましたが、ローコードツールを使用する事でプログラムを書かなくてもAPIが作れるようになります。その結果、これまで3ヶ月かかっていた開発でも半分ほどの期間に短縮できる見込みとなっています。
小林さん:開発の工数の抑制はサービス提供の早期化に繋がるので、生産性向上は欠かせない観点ですよね。
(※インタビューは2024年9月5日実施。情報はインタビュー当時のもの。)
■後編へ続く・・・
後編では、今後の可能性やセキュリティ、この取り組みのやりがいを語る!
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